がん治療別
化学療法による卵巣毒性のメカニズム

化学療法は抗がん剤の内服や注射によって全身に広がる可能性のあるがん細胞や、すでに他の場所へ転移していたり、全身に広がっていたりするがん細胞を攻撃するものです。正常な細胞は一定の規律をもって成長し、死んでいきます。ところががん細胞は分裂をいつまでも続け、無秩序に増え続けます。抗がん剤は、がん細胞の細胞分裂過程に働き、がん細胞の増殖を抑制、がん細胞の死滅を促します。
がんの種類によっては、第一選択の治療法として化学療法を行うことがあり、また、手術や放射線と組み合わせて補助的に化学療法を行うことや、がんを小さくするために手術の前に化学療法を行うこともあります。化学療法では、がん細胞の増殖を抑える一方で、正常な細胞にも影響を与え、副作用をきたします。特に、細胞分裂の活発な細胞、血液細胞、胃腸粘膜、毛根の細胞などが影響を受けますが、生殖細胞も影響を受けます。抗がん剤投与によって、卵巣にダメージが加わると、無月経や閉経を起こします。抗がん剤の種類・量・患者さんの年齢によって卵巣における障害の程度は異なり、卵巣毒性のリスクが異なります。
抗がん剤による卵巣機能への影響の原因は、抗がん剤等による発育卵胞への影響と卵子の枯渇という二つのメカニズムが考えられています。卵巣では、原始卵胞と呼ばれる卵子の元から、月経周期に合わせて一定数の卵胞が発育し、最終的に一つの卵子が排卵されます。発育段階の卵胞が影響を受ける場合、抗がん剤投与によって、卵子自体や卵子を取り囲んでいる顆粒膜細胞にアポトーシスとよばれる細胞死が引き起こされます。また、卵巣の周りの血管が途絶え、卵巣の周囲に線維化が起こり、卵巣への血流が減ることで、発育卵胞に影響を与えられると考えられています。
一方で、抗がん剤投与によって卵子の数が通常よりも早く減少することが知られています。卵子の元である原始卵胞は胎児期には最大で700万個ありますが、それ以降は減少し、増えることはありません。出生時には200万個、初経のころには20万個、1,000個未満になると閉経を迎えるといわれています(図1)。抗がん剤の投与によって、原始卵胞の卵子がDNA損傷を受け、細胞死に至り、卵子の数が減少します。
また、もう一つの機序として原始卵胞の活性化が起こり、卵子の枯渇が起こることが知られています。月経周期が確立すると毎月約1,000個の原始卵胞が発育を開始しますが、最終的に排卵に至る卵子はその中の一つで、残りの原始卵胞は発育せず退縮してしまいます(図2)。原始卵胞の活性化は毎月一定数に限られており、大部分の原始卵胞は休眠状態にあります。抗がん剤の投与によって休眠状態にあった原始卵胞が活性化され、通常よりも多くの原始卵胞が消費され、原始卵胞の枯渇をきたし、その結果無月経や閉経に至ると考えられています(図3)。
東京大学医学部 産婦人科
原田 美由紀、高橋 望

図1

図2

図3
子宮・卵巣への放射線照射が妊孕性に及ぼす影響
小児・若年がん患者の治療において化学療法・放射線治療を組み合わせることで生存率が大幅に向上しました。一方で、治療目的に行なわれる化学療法・全身放射線照射や骨盤内の放射線照射により卵巣機能が低下する可能性があることがわかっています。化学療法によるダメージは卵巣のみでありますが、骨盤内に照射された放射線治療では卵巣のみならず子宮に対してもダメージを与えます。
放射線照射はがんを制圧するためには非常に有効な治療法ですが、一方でこういった治療に伴う合併症があることも理解しておく必要があります。ここでは、放射線治療による子宮、卵巣へのダメージについて触れたいと思います。
まず、子宮・卵巣の主な機能について説明します。脳の視床下部-下垂体からの司令により卵巣からエストロゲン、プロゲステロンホルモンが分泌されます。それにより子宮内膜が増殖期から分泌期へと変化し、妊娠に適した状態に変化します。それに加えて卵巣からは排卵期に卵子が排卵します。
放射線照射はこれらの機能にダメージを与えることになります。
1.子宮への影響
初潮が開始する前の子宮は母指頭大くらいしかありませんが、思春期を迎え、月経が開始されると子宮の血管構造が変化しホルモンの影響も加わり、成人では鶏卵大から鵞卵大に成長し、妊娠するための準備が整います(図1)。
放射線照射による子宮への影響は不可逆的となる可能性があります。具体的には小児期における放射線被曝では、子宮体積が小さくなり、子宮筋層も線維化し、さらに子宮内膜の萎縮と機能不全を引き起こします1)。さらに成人期の骨盤放射線照射では子宮頸部も萎縮し、膣壁が癒着することで、膣から子宮の頸部が視認できないほどになることもあります。
成人期では > 45 Gy、小児期では > 25 Gyの照射で妊娠への影響の可能性があり、照射後の妊娠については慎重に検討する必要が出てきます1)、2)。妊娠中における放射線照射の影響としては、胎盤障害(例えば、胎盤の付着物または胎盤の機能障害)、胎盤の位置異常、早産および流産につながる可能性があります2)。まれではありますが、子宮破裂のリスクも増加させる可能性があります3)。
小児および思春期がんサバイバーの将来的な妊娠後の産科転帰を、がんの既往のない女性のそれと比較すると、がんサバイバーでは、胎児奇形のリスクは上昇しません1)、4)が、2,500グラム未満の低出生体重児や未熟低出生体重児になるリスクが上昇します5)。
さらに、2009年のBritish Cancer Survivorの研究では、腹部放射線療法で治療された小児がんの女性生存者は早産のリスクが3倍増加し、低出生体重のリスクが2倍増加し、流産のリスクがわずかに増加したという報告もあります6)。
以上から、小児期および若年期に放射線照射を受けることで、子宮は不可逆的な影響を受ける可能性があります。その影響は子宮内膜のみならず子宮筋層にも及ぶことで、不妊や妊娠後の早産などの合併症を起こす可能性が高くなります。放射線治療を受けたあとでの妊娠出産については、専門の医師に相談してください。
2.卵巣への影響
女性の卵子は男性の精子と異なり、卵子が新たに作られ続けることはありません。出生時、女性の卵巣には約100万個の再生不可能な原始卵胞(卵子のたまご)が含まれており、その数は主に細胞死と閉鎖により経時的に減少します7)。人の卵母細胞の数は胎児期(妊娠中期頃)に最大600〜700万個あり、量と質が次第に減少し、再生しません。出生時の卵母細胞は約100万〜200万個、思春期の30万〜50,000個、閉経の平均年齢である51歳の1000個になります8)。女性の卵母細胞の量と質とは、親からの遺伝的要因(持って生まれたもの)、ライフスタイル・環境、医療処置および疾患(子宮内膜症、卵巣手術、化学療法、放射線療法など)を含むいくつかの要因の影響を受けます。量についてはその名の通り、卵子の総数を指しますが、質というのは出生後年月が経つほど卵の状態が悪くなり、これにより高齢になればなるほど、妊娠率が低下する一因となります。
放射線治療により腸管など一部の組織ではその損傷は可逆的ですが、卵巣では不可逆的なものとなります。つまり、そのダメージの程度により残存する卵子数が異なってきます。放射線療法は、細胞増殖を制御する能力があり、DNA複製が活発ながん細胞は放射線による損傷に対してより脆弱なため一般的な治療として放射線治療が行われているのです。卵母細胞も放射線に対して非常に敏感であり、最初の減数分裂の分裂期で障害をうけ、細胞死に至ります。これまでの報告で卵母細胞は、DNA修復機構が欠如しているため、放射線による遺伝子の損傷を修復できないと考えられていました。しかし、動物モデルで行われた最近の研究では、哺乳動物の卵母細胞は酵素修復能力があり、放射線感受性は発達の程度と密接に関連していることが示されています9)。
治療の強度によって、すべての卵子が障害を受けるわけではないのですが、実際の治療の場面では、放射線治療は卵巣機能に大きな影響を及ぼします。これは卵胞数の自然な減少を早め、最初に述べた貯蔵された卵子数が一定値を下回ると閉経状態となります。したがって卵巣ホルモン産生の障害、エストロゲン分泌が不十分であることにより子宮機能障害、早期閉経および不妊につながります1)。卵巣で発生する損傷の程度は、患者の年齢(放射線照射時の年齢が若いほど、損傷が大きいほど)、被曝線量、被曝時間、最終的に関連する化学療法などのいくつかの要因に依存します10)。思春期前の年齢では、卵巣は放射線に対して非常に脆弱です。 2 Gy以下の放射線でも未熟な卵母細胞の半分が破壊されると推定され11)、25〜50 Gyで若年女性の3分の1および40歳以上のほとんどすべての女性で早発閉経となり不妊となります12)。さらに、卵巣の放射線被曝によって誘発される卵巣損傷のリスクは、シクロホスファミドなどの化学療法薬と組み合わせることにより増大する可能性があります。一方、放射線治療を受けた後、排卵機能が回復した場合、その卵からの妊娠出産児において奇形率が上昇するなどの報告はありません。
以上から、卵巣における放射線照射の影響としてはその卵巣の持って生まれた卵子数や放射線量などがあり、治療後の影響として早発閉経のリスクが高いことを知っておいてもらいたいです。
治療
子宮と卵巣は非常に近接した場所にあるため、基本的には放射線照射量は同じと考えるべきです。ですので、放射線治療に伴う影響としては、子宮性および卵巣性無月経となります。治療としてはまず卵巣機能不全に伴うホルモン欠落症状への対応が優先されますのでホルモン補充療法をはじめに行う必要があります。ホルモン補充療法を行っても、月経様の破綻出血が起こらない場合は、子宮内膜のダメージや癒着などが原因と考えられますので、妊娠を考えた際への影響を考えて生殖医療の専門の医師に御相談ください。
京都大学医学部 婦人科学産科学教室
堀江 昭史

図1
引用文献
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内分泌療法による卵巣毒性
この内容については準備中です。
分子標的薬療法による卵巣毒性のメカニズム

分子標的薬は、がん細胞にある特定の分子を標的とする薬物の総称です。がん細胞の増殖や生存にかかわる標的分子を制御することで、正常細胞へのダメージを抑えながら、効率よく腫瘍を攻撃する薬物として注目されています。慢性骨髄性白血病に対するイマチニブ(チロシンキナーゼ阻害薬)や、血管新生を抑制するベバシズマブ、乳がん細胞のHER2タンパクの働きをブロックするトラスツマブなど様々な種類があります。
分子標的治療薬は正常の細胞にダメージを与えにくいため、通常の化学療法よりも副作用が少ないといわれていますが、皮膚障害や薬剤性肺炎など、特有の副作用が起こる可能性があります。卵巣に与える影響について、米国臨床腫瘍学会(ASCO)のガイドラインには、ベバシズマブに中等度の卵巣毒性(治療後、30〜70%の無月経をきたす)があるとされています。また、チロシンキナーゼ阻害薬は、細胞内の情報伝達を担うたんぱく質に作用し、癌細胞の増殖を抑制するため、正常細胞の需要な細部内伝達にも影響を与える可能性があり、動物実験で胚生存の低下や着床障害などがみられることが報告されています。しかし、分子標的治療薬が生殖機能に与える影響についての報告はまだ少なく、その機序についても明らかにはなっていません。
東京大学医学部 産婦人科
原田 美由紀、高橋 望
下垂体・視床下部への放射線照射が妊孕性に及ぼす影響
近年、小児と若年がん患者の生存率は大幅に改善されてきました。脳腫瘍は20歳未満のがん患者の約17%を占め 1)ます。その治療の一つとして放射線治療がありますが、根治的治療目的の原発性脳腫瘍に対する治療に重要な役割を果たします。小児脳腫瘍の患者の生存率は国立がん研究センターの報告によると約70~80%に上昇しましたが、治癒後のがん治療に伴う副作用を考えなければいけません。こういったがん治療は、治癒後の何年も後に発症する可能性のある健康上リスクにつながる可能性があり、最も一般的な副作用として内分泌系への影響があります。頭部の放射線治療を行った患者は、視床下部-下垂体系の機能障害を発症することがあります。
まず、ホルモン分泌経路について説明します。ホルモンが分泌されるためには、まず脳の中にある視床下部というところから①成長ホルモン放出ホルモン、 ②成長ホルモン抑制ホルモン(ソマトスタチン) 、③プロラクチン抑制ホルモン(ドパミン) 、④甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、⑤副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン、⑥性腺刺激ホルモン放出ホルモン (GnRH)が分泌されます。それらは脳にある下垂体と呼ばれる中継点に作用し、それぞれ成長ホルモン(GH)、プロラクチン(PRL)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、性腺刺激ホルモン(Gn)が分泌されます。例えばGHの分泌が障害を受けると身長が止まり、低身長となってしまいます。ACTHは副腎皮質コルチコイドホルモン生成に関与しています。Gnは卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモン(LH)に分けられ、主に男性であれば精巣におけるテストステロンホルモン生成、女性であれば卵巣におけるエストロゲンホルモン(E2)やプロゲステロンホルモン(P4)の生成に関わっています。PRLは出産後の女性における母乳分泌に大きく関わっています。TSHは喉にある甲状腺に作用してさまざまな新陳代謝の過程を促進する甲状腺ホルモン分泌を制御しています(図1)。
脳腫瘍における放射線照射はこの視床下部-下垂体系にダメージが与えられます。 ホルモン欠乏症は、数年以上に渡り人の身体に影響を与えます。下垂体前葉から分泌される成長ホルモンが最も多く破壊され、その後、性腺、副腎、甲状腺ホルモンが続きます。下垂体前葉からの成長ホルモン分泌障害は一般的に不可逆的で進行性の長期合併症であり、小児がん生存者の最大50%に、成長、骨密度、思春期に対する影響を認めます。そのため、その影響を最小限に抑えるために厳格なフォローアップが必要となります。
またGn分泌障害は思春期からの性ホルモン分泌低下につながり、成人になってからのQOL(Quality of life)やと不妊に影響することとなります。下垂体機能低下の重症度および発症率は、視床下部-下垂体系に照射される放射線照射線量、および照射スケジュールなどによって決まります。個々の成長ホルモン欠乏症は10Gyという低い線量で発症する可能性がありますが、60Gy以上の照射では複数のホルモン欠乏症に伴う合併症が一般的に起こります。最近では、視床下部-下垂体系への影響を減らすことを目的として、照射する線量を最小限に抑える取り組みも考えられています。
化学療法は、放射線治療と同時に行なわれることでその治療効果を増強させることが期待されていますが、下垂体機能低下症の発症率が増加するかについては証明されていません。成長ホルモン以外にもACTHの分泌が障害され副腎不全になるとグルココルチコイド分泌がなくなり、一過性としても生命を脅かす可能性があるため注意が必要です。
以上のことから、腫瘍専門医と内分泌専門医は慎重に協力して患者の成長に合わせた最適な治療を選択する必要があります。
妊孕性への影響
視床下部-下垂体-性腺系は、放射線療法に対して非常に脆弱なホルモン系です2)が、放射線がこれらの系に影響を与える正確なメカニズムはまだよくわかっていません。主な原因としては、視床下部-下垂体細胞への直接的なダメージであると考えられています3)。理由は、放射線感受性が高い順に、GHが最も強くダメージを受け、続いて性腺ホルモンである下垂体前葉ホルモンの障害、その後に下垂体後葉からのホルモン分泌系が障害を受けるということに裏付けられています4)、5)。
放射線誘発性ゴナドトロピン欠乏症は、照射線量と腫瘍の位置に依存し、無症状のものから重度の形態に至るまで、幅広い臨床症状を示します。重大な性腺刺激ホルモン欠乏症は、放射線照射の照射時期には関係なく、発生率20〜50%の晩期合併症です6)。性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)、FSH、LH、およびPRLの分泌は、拍動性のリズムをもって分泌されています7)。しかし、下垂体が放射線による影響を受けたことによって現れるFSH/LH産生の拍動リズムの乱れは、月経周期不順につながる可能性があり、ひいては生殖能力と性欲に影響を及ぼし、妊孕性へ影響すると考えられます。
照射量による症状の違い-低線量照射と高線量照射
次に示すように低線量の頭蓋内照射では思春期早発症が発症する可能性があります。典型的な場合は2〜3年以上早い思春期徴候(男児なら精巣発育、陰毛発生、腋毛、ひげや声変わり、女児なら乳房発育、陰毛発生、月経)が認められます。これに伴い早期からの身長の著明な伸びと身長が十分に伸びる前に骨端線が閉鎖することによる低身長などの症状が現れます。ヒトでは、低線量(18〜24 Gy)は女性のみの思春期早発症と関連しており、高線量(25〜50 Gy)は男性、女性に関係なく影響を及ぼします8) 、9)。具体的には視床下部-下垂体の機能障害により性腺機能障害となり女性では無排卵・無月経となります。30 Gy以上照射した患者においては、永続的な無月経と不妊の割合が高いことがわかっています9)。このような治療を受けられた場合は、生殖医療の専門家に相談されることをお勧めします。
京都大学医学部 婦人科学産科学教室
堀江 昭史

治療
女性においては一般的に思春期以降、身長の発育が停止したのちに、女性ホルモン(エストロゲンホルモンとプロゲステロンホルモン)投与による月経発来を促します。早期の性ホルモン投与は身長停止の原因となるため、必ず専門医に御相談ください。妊娠を希望されるまで投与を継続することになります。
また、妊娠を希望される女性については、排卵を促す必要があります。この時、内服の排卵誘発剤といった視床下部-下垂体を介した排卵誘発剤は効果がありません。卵巣に直接作用するホルモン剤を注射する方法で排卵を誘発する必要がありますが、正しい投薬を行うことで自然妊娠も十分期待できます。
引用文献
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造血幹細胞移植の卵巣毒性
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